大判例

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東京高等裁判所 昭和39年(ネ)139号 判決

一、(建物保護法の適用に関する控訴人の主張についての判断)

(1) 控訴人は、被控訴人の賃借土地のうち(a)(b)の建物が存在する(A)(B)以外の部分には登記した他人の建物があり、被控訴人は一度もこれを建物所有の目的をもつて占有使用したことがないから、被控訴人がその賃借土地中(A)(B)の部分についてその地上に登記した建物(a)(b)を有するからといつて右(A)(B)以外の本件土地についての賃借権をもつて控訴人に対抗し得ないと抗争するが、一筆の土地の一部分について賃借権を有するものがその賃借地の一部の上に登記した建物を有するときは、その賃借地全部についての賃借権をもつて第三者に対抗し得るものと解すべく、その建物を利用するのに通常必要な範囲に限つてその賃借権をもつて第三者に対抗し得るに止るものではないから、被控訴人は本件土地を含む賃借地六三坪全部についての賃借権をもつて控訴人に対抗し得るのである。

(2) つぎに控訴人主張のように、昭和四〇年二月八日被控訴人の賃借地の一部である本件土地が分筆され、同月一一日控訴人名義に所有権が移転し同月一三日その登記がされたことは本件弁論の全趣旨によつてこれを認めることができるが、賃借地の一部の上に登記した建物を所有することによつて賃借地全部についての借地権をもつて第三者に対抗し得る者は、その後右賃借地が分筆されて当該建物の存在しない部分について所有権を取得した者に対してもその賃借権をもつて対抗し得るものと解すべきであるから(昭和三〇年九月二三日最高裁判所判決、最高裁判所民事判例集九巻一三五〇頁参照)、控訴人が被控訴人の賃借地中被控訴人の建物の存在しない部分である本件土地を分筆して自己名義に登記をしても、被控訴人は控訴人に対しその賃借権をもつて対抗し得るのである。又成立に争のない甲第一六号証によると、控訴人主張のように控訴人が本件土地上にある控訴人所有の建物について、昭和三六年六月二六日東京法務局渋谷出張所受付第一八四六三号をもつて所有権保存登記をしていることを認めることができるが、控訴人がその敷地である本件土地について昭和四〇年二月一一日その所有権を取得する以前これを占有すべき権原を有したことについては、控訴人の全立証によつてもこれを認めることができないのみでなく、仮に控訴人が右土地について賃借権転借権等これを占有すべき正権原を有したとしても被控訴人が(b)の建物について保存登記をしたのは前認定のとおり昭和三三年一〇月二八日で、控訴人の右建物保存登記より先であるから、被控訴人は控訴人に対し本件土地についての賃借権をもつて対抗し得るのである。

二、以上認定のとおり、被控訴人は本件土地についての賃借権をもつて控訴人に対抗することができるのであり、また控訴人は昭和二六年七月中から右地上に本件建物を所有してその敷地である本件土地を占有しているのであるから、その土地所有権取得の前日である昭和四〇年二月一〇日までは右土地の不法占有者として被控訴人に対し賃料相当の損害金を支払う義務があり、同月一一日以降は、右土地の賃貸人として賃貸借契約に基づいて賃貸人である被控訴人に対して右建物を収去して本件土地を明渡す義務がある。また、昭和三六年七月当時の被控訴人の賃借土地の賃料は一ケ月当り金三〇〇円であつたことは前認定のとおりであるから、その一部である本件土地七坪九合七勺を控訴人が占有することによつて被控訴人は同様一ケ月坪当り金三〇〇円合計金二三九一円の損害を被つたものというべく、従つて控訴人は昭和三六年七月一日以降昭和四〇年二月一〇日に至るまで一ケ月金二三九一円の割合による損害金を支払うべき義務がある。ところで、被控訴人は原審においては土地所有者である訴外井上邦之介に代位して同訴外人の所有権に基づいて控訴人に対し本件建物の収去および土地の明け渡し並びに不法占拠を原因とする損害金の支払を請求していたが、当審においてその請求原因を変更し、昭和四〇年二月一一日控訴人が本件土地の所有権を取得し、被控訴人に対する賃貸人としての地位を承継したことを原因として、賃貸借契約の効力として賃貸人である控訴人に対して本件建物の収去および土地の明け渡し並びに昭和四〇年二月一一日以降の損害金を請求しているのであるから、原判決中、不法占拠を原因として控訴人に対し昭和三六年七月一日以降昭和四〇年二月一〇日まで一ケ月金二三九一円の割合による金員の支払を命じた部分は相当であつて、これに対する本件控訴は理由がないから棄却すべきである。

次に控訴人に対し、別紙目録(一)記載の建物を収去して同(二)記載の土地の明渡を求め、かつ、昭和四〇年二月一一日以降右明渡ずみに至るまでの損害金の支払を求める被控訴人の請求は、控訴人が当審係属中に本件土地の所有権を取得し賃貸借を承継したことを請求原因とするもので当審における新たな請求であり(被控訴人は控訴棄却の判決を求めているけれども、弁論の全趣旨を通観すれば、その趣旨は、この部分につき新請求原因に基づいて原判決主文に示すと同じ内容の給付判決を求めるものであることが明らかである。)、そのうち建物収去土地明渡を求める請求の理由があることは前示のとおりであるから、これを認容すべきである。ただ昭和四〇年二月一一日以降の賃料相当の損害金の請求については、被控訴人は、賃貸人たる控訴人より賃借物件の使用収益を拒まれている間は控訴人に対し土地賃料支払の義務がないので、その間当然に賃料相当の損害を被むつているとはいい難く、他に被控訴人の損害の具体的事由については主張立証がないので、この部分の請求は理由がないものとして棄却すべきである。

(小沢 鈴木信 館)

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